清冷の朝に

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  「もう寄り道しちゃ駄目ですよ」 「…うん。ごめん」 「私こそ…ごめんなさい」 ぺこり、とお互い頭を下げ合って、そのまま別れた。 最後だから、と触れてこない久保さんはやはり素敵な人だと思った。 「…よしっ!仕事行く前に大掃除しようっと!」 帰ったら模様替えもしよう。 次の休日には雑貨屋へ行って、私の好みのカーテンとラグを買おう。 ついでに美容院にも行って、伸ばしてた髪もばっさり切りたいな。 腕捲りをしていると、先程触れていたガーゼの柔らかい質感を思い出す。 ――強固なはずの鎖を呆気なく断ち切ったのは、あのしわくちゃで柔らかい純真無垢なガーゼだった。 鎖は修復出来ないほど粉々に砕かれ、綺麗に散った。 久保さんは、私のものなんかじゃない。  
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