清冷の朝に

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  彼は私の会社の四つ上の先輩。 上司、と呼べるような役職ではないけど、高校を卒業したばかりで右も左もわからなかった私の新人指導をしてくれたのが彼で、それをきっかけに話すようになった。 職場の工場は比較的若い子が多くて、月一のペースで飲み会がある。 その度にいろいろな話をした。 若い子だけの飲み会は上司の悪口ばかりが飛び交う。 でも彼は一度だってそういったことを口にしなかった。 空気が読めない訳じゃない。ただ相槌を打って話を流す。 …大人だな、って思った。 決してイケメンとは言えない人だけど、その人柄と柔らかい物腰にどんどん惹かれていった。 でも彼とどうにかなりたいだなんて思ったことはない。 彼は私が惹かれるより前に結婚していたし、子供だって産まれてる。 その子の写メを見ても何の感情も湧かないってことは、彼を恋愛対象として見ていないということなんだろう。 奥さんは私なんかよりよっぽど早くこの人の良さに気付いていたんだ。 そりゃそうだ。 こんなに素敵な人なんだもの。 ただ、ちょっとだけ… 奥さんより早く出会いたかったかな、とは思った。  
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