清冷の朝に

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  送ってもらったアパート前でキスをされた。 拒まない私に彼は眉をひそめた。 「…そこでビンタくらいしないと」 「…そういうモンですか?」 「…そういうモンだよ」 そういうモンらしいけど、私の身体は彼を受け入れた。 尊敬していた彼は聖人君子なんかではなくただの男だった。 でも、私はそんな彼にもうどっぷりと浸かり込んでしまったらしい。 甘い余韻に浸ったまま彼の腕の中で微睡んでいる時、ベッドの下で散乱している彼の衣服に埋もれた携帯がメールの受信を知らせた。 …その途端、甘い感覚が急激に冷めて罪悪感が一気に押し寄せてくる。 何て事をしてしまったんだろう。 何て事をしてしまったんだろう。 顔も知らない彼の奥さんと子供が、私の中で断末魔の叫びを上げた気がした。 自分の軽率で愚かな行動にどうしていいかわからず涙が溢れた。 そんな私を、彼は「全部俺が悪いんだ」と言って強く抱き締めてくれた。 ――もうこの腕からは離れられない。 そう、思った。  
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