清冷の朝に

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  あれから丁度二年。 今日はロマンスと言う名の不貞行為が始まった、記念日。 十九歳だった私は二十一歳になっていた。 夜勤明けの彼が日勤の私の部屋に来たのはこれでもう何回目なんだろう。 私はベッドから抜け出すと簡単に衣服を身に纏い、ソファーに掛けられた彼のジャケットを手に取った。 ふわりと彼の香りがして、泣きたいほどに胸が痛くなる。 「…ごめんなさい」 用意していたピンク色のハンカチを手に取ると、彼のジャケットのポケットに視線をやった。 私は弱虫で卑怯だ。 こんな終わらせ方しか知らない。 香水付きのハンカチを仕込むだなんて三流ドラマでしか見たことがないけど、情けないことにこれしか思い付かなかった。 でも、これでいい。 こんな間違った関係は、もう終わらせなくちゃいけないんだから。 奥さんがハンカチに気付いて少しでも警戒してくれれば。 女の影を、少しでも感じてくれれば。 奥さんと別れて欲しいだなんて思わない。 ただ、鎖を断ち切るきっかけとなって欲しい。 …私はどこまでも卑怯だ。  
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