流浪の君

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第壱部【EARTH・WORD】 パン屋アルバイトは朝の5時から始まる。 アルバイトの身で言えた義理じゃないけど、 これじゃ本職みたいだといつも愚痴ってる。 まあ、店長の前では言えるわけないが、 ガラガラがラ 「遅いよ、遅いよ。もっと速くこれないかい」 「毎回来るたびに5分ずつ速くしているのにまだ遅いですか?店長ー」 俺は長い金髪で蒼眼の女店長にどやされながらやっとのことでオーブンのある部屋までたどり着く。 「来るたんびにこの態度かよ…。辞めようかな」 「ぶつぶつ言ってないでさっさと仕事するっ!」 「は、はいっ!」 パン屋に地獄耳の才能は必要かどうかを考えながらも手と腰は動き、 パンの種をひたすら練る 練る…… 練るっ…… 声が聞こえ始めたのはそんな時だった。 「お金はありません。えっ!!そ、そんな。」 練るっ…練るったらねる…… 「キャー!!助けてー!」 練る練る練るねっと。 そこで流石の俺も、やっとその声が、店長の好きな昼ドラじゃないと言うことに気付いた。 テレビがついてなかったしな。 「あ~、めんどくせー」 呟きながらも、窓をがらりと開ける。空は吸い込まれそうな青で山に囲まれた、汚らしいこの村を少し綺麗に見せていた。
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