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定食の誘惑
今日の昼も私は友人と会うためだけに定食屋に来ていた。
妻が作った定食は……まぁ、おいしかった。
ただ最近ひどくヘルシーになっている気がする。
「あなたはもう少し痩せた方がいいわよ。最近メタボとか流行ってるんだから」
妻の言い分だが、あいつは定食をまるで理解していない。
朝方はまだいいが、
昼頃には当然、冷めてしまうのが定食なのだ。
冷めた定食を食べさせられているのだから、こい味付けというサプライズくらいつけてしかるべきだというのに。
「おめぇ 今日も奥さんの定食か?」
カラカラという音とともにこの店のオーナーで私の友人でもある男が入ってきた。
「……あぁ、今日も美味しいぞ…」
「もっと美味そうな顔して言うべきたぜ?そういうことはよ」
この定食屋は彼の奥さんが一人で営んでいるのだが、とても美味らしい。まぁ、私は妻子もちなので妻の定食から浮気などするつもりはないが。
「あなた、今作ったばかりの定食よ」
そういって店主つまり友人の妻がだしたのは……『トンカツ定食』だと!?
しかも、揚げたてか、いいにおいがただよってくる。
あぁ、いいにおいだなぁサクサクとした衣、ジューシーな肉汁が口中に広がって……
「そんなに喰いたいならよ、一口喰うか?」
はっ…思考がだだ漏れになるほど私は……
ふと自分の定食が目に入る。
「……」
何の彩りもなくサラダが盛られているだけの『妻の定食』
「――いや―――」
私は今まで妻子もちでありながら他人の定食に溺れ、潰れてきた奴らを見てきている。だから私は絶対に食べない。絶対に、だ。
決意を固めた私の横でサクッサクッという悪魔の誘いがくすぶり続けていた。
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