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定食の後悔
朝、私はベッドとは違うカウンター席の硬さで目を覚ました。
散乱した定食屋の景観が昨日の定食の味を思い出させ、ボーッとした頭にゆっくりと記憶が戻ってくる。
「んっ……」
私の隣のカウンター席で彼女は眠っていた。
定食の作りすぎで疲れて眠ってしまったのだろう。
頭がスッキリしていくと同時に生まれる罪悪感で私は、このまま逃げてしまおうかと思った。
しかし、今帰って何もなかったことにしてしまえば、もえ彼女の定食を口にすることは出来ないだろう。
もう私には彼女の定食がない生活は考えられないのだ。
肉厚ジューシーなトンカツ。
ほどよく煮込まれたカレー。
添えられた漬物でさえ、妻の定食では我慢出来ないだろう。
だが、ここで私の思考は降り出しに戻る。
そう……私にとって長年連れ添った妻も同じくらい大事なのだ。
「とりあえず」
ゆっくりと帰る支度をする。
「行ってしまうんですね。奥さんの定食を食べに」
「……また来ます」
どちらも失いたくないだけ、そんな狡い自分が許せなくて一度も振り返らずに帰途についたのであった。
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