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美香は時計を持ったまま、足早にどこかへと去っていった。元より早起きなので、どうやら朝の祈りは既に終えていたらしい。
残された二人は談笑しながら、朝食の用意されている筈の大広間へと向かって歩き出す。
この教会には、美香のように住み込みで修行をするシスターが数人存在する。ありがたいことに、家事や光輝達の身の回りのことは全て彼女らがやってくれるのだ。
と、綺麗に掃除された長い廊下を歩きながら、彼が心中で彼女らに対する感謝と尊敬の意を唱えていると、すぐ後ろから白次の呼ぶ声が届く。
「ああ、そうだ。光輝君」
「うん?」
振り返った光輝は、顔を引き攣らせた。
少しだけ上目遣いになり、何かをねだろうとする子供のような視線を光輝に向ける白次に、彼はあからさまに不機嫌そうな顔を見せる。
――いい歳した殿方が上目遣いをされますと、大変お気持ちが悪ぅ御座います。どうかご理解下さいませ、くそやろう。
「……何だよ、白次」
「すいませんが、書庫の掃除をお願いできますか? 勿論、学校から帰ってからでいいですし、できる範囲で構いません」
「そんなの、あんたかシスターが……あぁ、今日は聖歌祭か」
前述した通り、家事は全てシスター達の仕事であり、教会内の清掃も当然そこに含まれるのだが、書庫はあまり使われない場所のため、週に一度、金曜日にしか掃除されない。そしてまさに、今日がその金曜日だった。
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