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『チリンリン』
ベルの音に振り向くと、同級生の陽介が猛スピードで坂を下ってきた所だった。
『キィィィッキィィキィィィ』『ザザザザザー』
「暑いな!」
陽介は開口一番、そういった。
「ああ……」
真哉は半ば呆気にとられて、ぼんやり返事をした。
――それはそうだが、それよりそのキーキキーキ音のする、ブレーキの効かなそうな自転車で突っ込んで来るなよ……怖すぎるだろ。何の恐怖アトラクションなんだよ………。
これは、もちろん口には出さない。
「わりぃ、週末修理に出すよ」
陽介は自転車を一応気にしていた。
まぁ、しかたのないことだ。もう4年はこの自転車に乗ってる。
中学から雨の日も風の日も自転車で通学したために、自転車はボロボロだ。
新車でなおかつ手入れの行き届いている、真哉の自転車と比べれば、一目瞭然である。
当然、漕ぎ始めるとギシャギシャ音もする訳で………。
「まぁ、お前はそれだけ一台の自転車を大切にしてるということだな。俺なんて、この自転車二代目だもんな。事故ったからなぁ……」
真哉は高校に行くにあたって、自転車を新調したのだが、二ヶ月目に自動車と接触事故を起こして、オシャカにしてしまった。
「まぁ、自転車だけでよかったよ。乗ってた本人がオシャカにならなくてな」
陽介は苦笑した。真哉は笑えない。間一髪でかわしたのだから。
「どのみち、俺は三台乗り換えてるんだよ。(同じ形ではあれが初だったけど)」
「そりゃあ、真哉は成長が段階的だったからだよ。俺なんか中学までは、全然伸びなかったもんね」
「でも、いまじゃお前のほうが高い」
そういって、真哉は笑った。
いつもと変わらない、夏空の下で。
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