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「………俺は…………妹が弁当も食えねぇのかと思うと………悔しくってなんね……妹が食えないのに……俺が食う訳には………」
陽介は、声をつまらせながら、言った。膝の上で拳が握られ、涙を堪えているのがよくわかる。
初めて見る友のそんな姿に、真哉は狼狽した。
「どうした……さっちゃんに何かあったのか?」
陽介の妹の咲智のことは、真哉もよく知っている。
人懐っこく、笑顔の絶えない明るい子だ。妹の志音と同じく、吹奏楽部で頑張っているはずだった。
「昨日……久々に咲智の弁当箱……洗うことになったんだ」
両親ともに出張が多いので、陽介は妹と二人っきりのことが多いのだ。
「咲智が……自分で洗うって言い張って……おかしいな……って思いつつ、開けてみたら……弁当食べてないんだよ」
それが、そんなに悩むことなのだろうかと、真哉は一瞬思ってしまう。
「ただ食べてないだけなら……あいつも女の子だし……気にしなかったんだが」
しかし、それはあっさり否定しなければならなかった。
「中身、グシャグシャなんだよ………ひっくり返ってて………登校中に崩れたのかな……って思ったんだけど、違うんだ……。埃が混じってるんだよ」
真哉は絶句した。今朝の光景が思い浮かんだからだ。
陽介が咲智を問い質すと、咲智はいじめられていることを白状したという。
咲智は、毎日毎日、弁当を床にひっくり返されるのだという。彼女は、誰にも心配をかけまいと、健気にも、それをひろいあつめ、下校時に処分していた。それが、たまたま、その日は処分しそびれ、兄の知るところとなった訳だった。
「で、さっちゃんは今どうしてるんだ……」
「学校へかけあったけど、教頭が代わってて、融通が効かないんだ。だから、休ませてる」
陽介の言葉は、真哉を落胆させるだけだった。
「三中も教頭校長が代わってから、荒れ出したよな………」
真哉も食欲がなくなったが、無理に卵焼きを口に押し込んだ。
「ほら、陽介。食べろ。お前まで食べなかったら、さっちゃんの苦痛が増えるだけだぞ。食え。それは罪じゃない」
陽介は、なんとか箸を運んだ。
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