壱-闇に紛れる者-

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「飛踏(ひぶみ)」 緋蘭はそう言うと床も存在しない宙に踏み出す。 だが緋蘭の身体は地面に落下することなく宙を歩く。 「早めに片付けるよ」 〝御意〝 まるで床があるかの様に緋蘭は夜の街の上を駆け抜ける。 紅夜も風の抵抗を諸共せずに宙を泳ぐ。 二人がいたところには人がいた気配すら残ってはいなかった。 朝日が昇り始めた頃に緋蘭たちは家路に着く。 何かしら任務が入れば毎度のことである。 「マジ汚い」 緋蘭はムスっとした顔で家の玄関の戸を開ける。 家は先祖代々続く家で周りから見ればまるでやの付く仕事のお屋敷だった。 「あらあら、早くお風呂に入っちゃいなさい。沸かしてあるから」 ひょこっと一人の女性が台所らしきところから顔を出す。 緋蘭の母 朱宮緋紗奈(あかみやひさな)だ。 緋蘭の髪色は母と同じ眞紅である。 「はーい」 〝朝食は緋蘭様の大好物のじゃがいもの味噌汁でございますよ〝 ふよふよと母の影から出てきた忍び魚の名は 紫翠(しすい)。 翠の体に美しい紫のヒレをもつ和金で母の忍び魚である。  「あー紫翠さんおはよー。見てよこれ!」 緋蘭は服についたおびだたしい血痕を紫翠に見せる。 〝今回は随分とお汚れになって。ささっ、お風呂に参りましょう〝 緋蘭は紫翠と話ながら風呂場に向かう。 紅夜はふよふよと台所に入っていく。
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