第1章

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翌朝。 「おはよう、達哉くん」 駅で電車を待っていると岬がやって来て横に並んだ。 「おはよう……」 僕は昨日のことが気になって、全然眠れなかったから岬の元気よさにはついていけない。 「どうしたん?なんか元気ないけど?」 「うん、まぁ、いろいろあって……。電車乗ってから言う……」 ちょうど電車が滑り込んできたので、僕らはその電車に乗った。 「実は昨日こういうことがあって……」 僕は昨日のことを事細かに岬に話した。 「やっぱり出るのね…。あれは幽霊なのよ。おかげで、最近最終電車に乗る人がすっかり減っちゃったの。赤字になるから何とかしないとって、もー、お父さんたら本社の人と真夜中まで議論してるから寝れなくて」 寝不足はわたしも一緒、と岬は笑った。 まったく、どうしたら寝不足でも、そんなに元気でいられるのだ……。 「一つだけ手掛かりがあってね…?」 岬がコソッと言った。 「昔、あの辺りで事故があったらしいの」 「事故?」 岬の話によれば、それは確実なことではなく、あくまでも『らしい』ということなのだと言う。 戦後直後のことで、混乱のなか、忘れ去られてしまったということなのだろうか……? 「それで、達哉くんにお願いがあるんだけど……」 岬は、拝むような仕種をして言った。 「何?」 岬がこの仕種をするときは、ちょっと面倒な頼み事のことが多い。それでも、つい引き受けてしまうのはなぜだろう。 「達哉くん、鉄道のこととか、伝説とか、言い伝えとか、そういうの、いろいろ詳しいじゃない?私も知ってるのは知ってるけど、間に合わなくて。だから、このことについて調べるの手伝ってほしいの。お願いっ!」 なんだ、そんなことか。いろいろ手間は掛かりそうだが、そういうのは嫌いではないし、第一それが他人の役に立つのなら、寝不足になろうがご飯を食べなかろうが平気だ。もちろん、岬の寝不足も解消されるだろうから。 そう思って僕は二つ返事で引き受けた。
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