第2章

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もっと聞いて回りたいのだが、夏休みだから学校で情報を得るのは難しいだろう。 「今日あたり、駅前のぼくたん屋のおばあちゃんに聞きにいってみようかな。あのおばあちゃんなら、何か知ってるかもしらんから」 ぼくたん屋というのは、霧石地区が集落だった頃から駅前にある、古い、雑貨屋のようで駄菓子屋のような、不思議な万屋のことだ。 店番をしている、清おばあちゃんはもうじき85歳だが、かくしゃくとしていて元気だ。ほんの少し耳は遠いが、ちょっと声を大きくすればかみ合わない訳ではない。 岬も真相が気になるのか、帰り道だからとかなんとか言って、一緒についてきてくれた。 ぼくたん屋は、建物自体もこの地区では一番か二番目に古い木造の建物だ。 軒先は少し傾いでいるが、全体としては、店番の清おばあちゃんと同じく、かくしゃくとしている。 「こんにちは」「こんにちはー」 僕たちは、少し建て付けの悪い木枠の戸を開けて声をかけた。 「はいはい、こんにちは」 おばあちゃんは奥の座敷から、ゆっくり歩いてきた。 「おやぁ、誰かと思ったら、岬ちゃんとたつくんでないかい。随分とまぁ、久しぶりだねぇ。幾つになったんだい?」 岬も僕も、小学生の頃はぼくたん屋でおやつや文房具を買ったものだった。 最近はすっかりご無沙汰していたが、僕らのことをすぐに見抜いて昔のあだ名で呼んでくれるぐらい、おばあちゃんはよく覚えていてくれた。 久々にそんな呼び方をされて、少しくすぐったい。 「もう、高校一年です」 「そうかいそうかい、大きくなったねぇ」 おばあちゃんは、目を細めて大きく頷いた。 久々に僕たちが来て嬉しいらしい。 「それで、今日はちょっと聞きたいことがあって…」 「ほえ、何かいな」 おばあちゃんは、大袈裟に驚いた顔をした。 「むかし、伊沢線で事故があったって、聞いたんですけど、何か知ってらっしゃること、ありませんか?」 岬が、単刀直入に聞いた。 ついて来るだけじゃなかったのかよ……。 「ああ、あのことだね。最終電車の幽霊」 おばあちゃんも、幽霊のことを知っていたらしい。 「みんなもうすっかり忘れてしまってねぇ……。あそこでは昔、大きな事故があったんだよ……」 ――それは、ちょうど太平洋戦争が終わった1945年の、その秋のことだった。 まだ残暑が厳しいなか、買い出しの乗客を満載にした電車が、いつものように丘陵を登っていた。
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