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もっと聞いて回りたいのだが、夏休みだから学校で情報を得るのは難しいだろう。
「今日あたり、駅前のぼくたん屋のおばあちゃんに聞きにいってみようかな。あのおばあちゃんなら、何か知ってるかもしらんから」
ぼくたん屋というのは、霧石地区が集落だった頃から駅前にある、古い、雑貨屋のようで駄菓子屋のような、不思議な万屋のことだ。
店番をしている、清おばあちゃんはもうじき85歳だが、かくしゃくとしていて元気だ。ほんの少し耳は遠いが、ちょっと声を大きくすればかみ合わない訳ではない。
岬も真相が気になるのか、帰り道だからとかなんとか言って、一緒についてきてくれた。
ぼくたん屋は、建物自体もこの地区では一番か二番目に古い木造の建物だ。
軒先は少し傾いでいるが、全体としては、店番の清おばあちゃんと同じく、かくしゃくとしている。
「こんにちは」「こんにちはー」
僕たちは、少し建て付けの悪い木枠の戸を開けて声をかけた。
「はいはい、こんにちは」
おばあちゃんは奥の座敷から、ゆっくり歩いてきた。
「おやぁ、誰かと思ったら、岬ちゃんとたつくんでないかい。随分とまぁ、久しぶりだねぇ。幾つになったんだい?」
岬も僕も、小学生の頃はぼくたん屋でおやつや文房具を買ったものだった。
最近はすっかりご無沙汰していたが、僕らのことをすぐに見抜いて昔のあだ名で呼んでくれるぐらい、おばあちゃんはよく覚えていてくれた。
久々にそんな呼び方をされて、少しくすぐったい。
「もう、高校一年です」
「そうかいそうかい、大きくなったねぇ」
おばあちゃんは、目を細めて大きく頷いた。
久々に僕たちが来て嬉しいらしい。
「それで、今日はちょっと聞きたいことがあって…」
「ほえ、何かいな」
おばあちゃんは、大袈裟に驚いた顔をした。
「むかし、伊沢線で事故があったって、聞いたんですけど、何か知ってらっしゃること、ありませんか?」
岬が、単刀直入に聞いた。
ついて来るだけじゃなかったのかよ……。
「ああ、あのことだね。最終電車の幽霊」
おばあちゃんも、幽霊のことを知っていたらしい。
「みんなもうすっかり忘れてしまってねぇ……。あそこでは昔、大きな事故があったんだよ……」
――それは、ちょうど太平洋戦争が終わった1945年の、その秋のことだった。
まだ残暑が厳しいなか、買い出しの乗客を満載にした電車が、いつものように丘陵を登っていた。
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