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「これから与えられる分岐点……騙されないで、進まないで……日常から離れちゃ駄目。信用して」
酷く心配そうな顔つきだ。
以前にも久彩子はこのように心配してくれて、その時は従い助かったが……今回は久彩子の忠告より俺の好奇心の方が勝っている気がする。
それでも極力彼女の話を聞こう。
……いずれ迷う時の鍵になるだろうし。
「わかったよ。……で?用事はそれだけ?」
からかうように片目を伏せて言うと、彼女は少し顔を下げ、困った顔をした。
「それだけ……って……」
くぐもる声を愛しく思い、俺は久彩子の頭を軽く撫でた。
「ごめん、ちょっといじめた」
そう耳元で呟くと彼女は小さな声で笑った。
「ご飯食べた?」
「否、まだ」
「良かったー、私もまだなんだ」
「そっか。それなら一緒に食うか?」
「あ、じゃあ支度するからキッチン借りるね?」
「どうぞ」
スリッパの音が部屋に響く。
久彩子は手に持ったスーパーの袋を嬉しそうに胸に抱く。
無音状態が一気に華やかに音を立てた。
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