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昔々。ある所に「かめ」という名の男と、「つる」という名の女がおりました。
二人は幼馴染で、とても仲が良く、いつも一緒に遊んでいました。
そして十五歳のころ、恋に落ちました。
ある日、二人はいつものように逢引をしていました。
場所は、大人の膝くらいまで草が生い茂っている野原です。
その日は、二人で散歩しながら、話をしていました。
二人にとって、それはとても楽しかったのでしょうが、あまりに夢中になりすぎて、あまり来たことのない場所まで歩いてしまいました。そのため、いつもより帰るのが遅くなってしまいました。
二人は、早く帰ろうと、早足になりました。
最初は走って帰ろうとしたのですが、いつもより遅いといってもまだ夜明けには程遠い時間です。わずかな月明かりしかありませんでしたので、目の前と足元を見るのでやっとでした。
知らない場所で、しかも急いでいるせいで注意力も散漫になっていたのでしょう。足元に古井戸があったのに気づきませんでした。
かめがなんとか井戸のふちをつかみ、つるはそのかめの足にしがみついていました。
かめは、つるごと自分を引き上げようとしましたが、いくら男でも手だけで二人分の体重を支えるのには無理がありました。
〝このままだと、二人とも落ちて死んでしまう〟
そう思ったかめは、助かりたい一心で、つるを古井戸へ蹴り落としてしまいました。
そして、かめは古井戸から一人でなんとか這い出し、そのまま逃げるように家に帰りました。
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