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それから、十年が過ぎました。
かめは、すっかり大人になって、つるのことをもう忘れてしまっていました。
そして、ある日、かめはある女に恋をしました。
その女はたいそう美人な女でした。
めでたく恋の実った二人は、野原でいつものように逢引をしていました。
その日は、散歩をしながら二人で話していました。
時間が経つのも忘れて話に夢中になってしまい、帰りを急がねばいけなくなりました。
しばらく歩いた時、ふと、かめはこの景色に見覚えがあることに気づきました。
そう、ここは、十年前と同じ場所だったのです。
気づいた時には、二人で古井戸に落ちていました。
しかし、今度は女が井戸のふちをつかみ、かめがその女の足をつかんでいました。
女の手で大人二人分の体重を支え切れるはずもありません。
女ははじめは躊躇っていましたが、やがて決心したように小さく頷くと、涙を浮かべながらもかめを古井戸に蹴り落としました。
幸か不幸か、井戸から落ちたかめは、転落死することはありませんでした。
そして、ゆっくりと後ろを振り向くと。
そこには、つるが……
そのあと、かめがどうなったのか、知る人はいません。
……いや、訂正しておきましょう。
つるは、かめをどうしたのでしょうか?
それは、つるとかめだけしか知りません。
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