嘘か真か

4/7
前へ
/7ページ
次へ
 それから、十年が過ぎました。  かめは、すっかり大人になって、つるのことをもう忘れてしまっていました。  そして、ある日、かめはある女に恋をしました。  その女はたいそう美人な女でした。  めでたく恋の実った二人は、野原でいつものように逢引をしていました。  その日は、散歩をしながら二人で話していました。  時間が経つのも忘れて話に夢中になってしまい、帰りを急がねばいけなくなりました。  しばらく歩いた時、ふと、かめはこの景色に見覚えがあることに気づきました。  そう、ここは、十年前と同じ場所だったのです。  気づいた時には、二人で古井戸に落ちていました。  しかし、今度は女が井戸のふちをつかみ、かめがその女の足をつかんでいました。  女の手で大人二人分の体重を支え切れるはずもありません。  女ははじめは躊躇っていましたが、やがて決心したように小さく頷くと、涙を浮かべながらもかめを古井戸に蹴り落としました。  幸か不幸か、井戸から落ちたかめは、転落死することはありませんでした。  そして、ゆっくりと後ろを振り向くと。  そこには、つるが……   そのあと、かめがどうなったのか、知る人はいません。 ……いや、訂正しておきましょう。 つるは、かめをどうしたのでしょうか? それは、つるとかめだけしか知りません。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加