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「へっ、へぇ……そうなの。私は全く知らなかったわ」
普段とは打って変わって、真剣な眼差しで語る僕の挙動に危機を察知したのか。レリエフは話題をはぐらかす。
「そっか。でも折角なんだからレリエフも何かお願いすればいいんじゃないかな?」
「おっ、お願いなんて何も……私には望むモノなんてないもの」
レリエフは僕に目を合わせぬまま、自分の腕を抱きしめるようにして俯いた。
僕は空かさず言及する。
「そんなこと言って、レリエフってば本当は今日がクリスマス・イヴだって知ってて、何かいかがわしいことを考えてたんっじゃないの?」
「んなっ、いかがわしいって……はっ、破廉恥だわ!そもそも何で私がそんなことを知ってるのよ。私は幼い頃から武勇に生きてきたんだから、そんなこと知る余地なんてあるわけないじゃない!」
猫科のような去勢染みた威嚇を断行するレリエフは、僕に弄られたことが癪だったのか小さく口を引き結んで頬を赤らめていた。
その光景が微笑ましくて、僕が柔和な声で小さく笑った。陽が昇り始めたとはいえ、潮風が吹き曝しになっているオブリビオンの丘の風は冷たく、僕の肩は無意識の内に力んでいた。
潮騒に混じって何やら陽気な旋律が何処からともなくオブリビオンの丘に漂流する。ロゼリアの街ではもう饗宴が始まっているのだろうか。
「レリエフは分かり易いね。レリエフは興奮気味になると直ぐに早口で饒舌になるし」
「んにゃに!?」
「それと変な声を上げるよね。……まぁ、それはさて置きさ。僕にはあるんだ。叶えたい願いが」
でもその楽しい一時を何時までも送っているわけにはいかない。僕は脱線しかけた話題を修正するべく強引に本題を捩じ込む。
そう、これだけは彼女に伝えなければならない。
だって、それがこれから嘘を吐き続けようとしてる僕に残された、唯一の真実だったから。
「えっ、ちょっと、ハクア。急にどうしたの?」
「一度だけしか言わないからよく聞いて、レリエフ」
そう言って僕はレリエフの手を握る。初めて感じる人の温もり。レリエフの手は十二月の待機に晒されていたにも関わらず、僕の手よりも暖かった。
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