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「だっ、駄目よ!」
それは何に対する言葉だったのだろう。レリエフは僕を突き飛ばしそれを拒絶した。
「お願いだ。これだけは言わせてほしいんだ」
「だめ……ダメったら駄目よ!」
「どうして聞いてくれないんだ。だって僕は――」
「言わないで!その先はお願いだから言わないで!」
レリエフは首を左右に振りながら大声でそう叫んだ。レリエフは純然の瞳に涙を溜めていた。
「言わないで……ううん、聞きたい。ハクアが何を思って何を言おうとしてるのか聞きたい。けれど、けれど駄目なの。それを聞いてしまったら私は貴方を、殺せない」
「レリエフ!」
「っ……!?」
次の瞬間、僕はレリエフを抱きしめていた。
それは禁忌の極み。レリエフと積み重ねてきた絆を僕は捨て去った。これで僕はレリエフの生死を掌握してしまった。彼女の生と死は今や僕のもの。そこに信頼などなく。彼女の命運は僕に委ねられた。
でも、そんなものはどうでもよかった。彼女を救うことができるなら。僕はその信頼を捨てても構わない。
「レリエフ。僕の話を聞いてほしい」
レリエフの温もりを全身で感じながら僕は言う。
「僕は君がほしい。だって僕は君が――レリエフが好きだから」
災禍である僕をいずれ殺すであろう救済者の身体はあまりにも柔らかかった。柔らかくて少しでも力を込めてしまえば、砂で作られた城のように壊れてしまうのではないかと思えてくるほど、レリエフは儚気で……愛おしかった。
「うっ、嘘よ」
「嘘じゃない」
「だって私と貴方は救済者と災禍でーー」
「嘘じゃない」
「だから、私たちは敵同士でなければならないのにーー」
「嘘じゃないんだ」
嘘なんかじゃない。間違いなんかじゃない。この思いだけは絶対に嘘なんかじゃないんだ。
「――どうしてこんなにも同じ気持ちでいるのよ!」
僕は気付いていた。レリエフが僕を好きでいてくれたことを。
だって、僕は彼女より前にレリエフのことが好きだったのだから。
「いけないの!貴方と私は惹かれ合ってはいけない。だって私は世界の救済者で、貴方は終焉の使者なんだから!だから駄目なのよ。この胸を締め付けるこの感情も、ハクアとの間にできてしまったこの絆も!全て忘却の彼方に押しやって、忘れなきゃいけないのよ!」
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