終章 最果てのクリスマスと嘘つきサンタ

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 でもーー。  レリエフの掠れた声が僕の鼓膜に届く。その体は小刻みに震え、手を放してしまえば傀儡師のいなくなったマリオネットのようにその場に崩れ落ちてしまうのではないかと思えてくる。 「でも、無理だった。私はハクアを忘れられなかった。ハクアに対する気持ちに気付かないフリをして自分を偽ってきたけど、私は貴方に対するこの思いを無碍にしたくなかった!」  理性を失ったようにレリエフは僕の背中で泣いた。僕を殺すために失ったはずの感情を洗いざらい吐き出すように、僕にはばかることなく大声で泣いた。 「殺す機械なら幾度となくあった。実際、貴方が眠る部屋に忍び込もうとも思った。けど、だけど、私は……貴方を殺せなかった。貴方を失いたくなかったのよ」  背中にレリエフの爪が突き立てられる。皮膚が抉られ、一瞬だけ体内に電流が流れたような感覚に囚われる。  それを僕はただ受け入れた。彼女の痛みを。悔恨の情を。  泣き声に紛れた「どうして、どうしてなのよ」という小さな声が、周囲に拡散することなく僕の脳内だけに出力される。  その問いかけに僕は謝ることしかできなかった。双刀が担がれたその背中を抱きしめることしかできなかった。  できることなら声をかけてあげたかった。ごめんね、辛かったよね、もう大丈夫だからね、と彼女の不安を拭う一言を発したかった。  けれど僕の決意がその言葉を声帯の後ろへ押し戻す。  してはならない。もしここで彼女を慰めてしまえば彼女は死んでしまうから。 「ふっ、ふふふふふっ……」  だから僕は嘘を貫徹することにした。  嘘を貫き通せ。彼女を騙し、自らをも騙しうる完全な嘘を。彼女を救うための最愛にして最大の嘘を。嘘を嘘ではないと嘘をつけばいずれ全てが嘘の出来事となり、どこまでが本当でどこからが嘘なのか分からなくなる。木を隠すのなら森の中だ。 それに僕は今までだって嘘をついてきたじゃないか。道化師を装いレリエフと相対してきた。 でなければ僕の心は迫り来る『死』の恐怖に潰れてしまいそうだったから。  ならできるはずだ。彼女の心を裏切る最低の言葉を、歪曲した僕の愛情を彼女に伝えろ。  「ハク、ア……?」
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