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その起源は人類の生誕にまで遡る。
言葉や概念が生まれる以前、文化や宗教が栄えるより前に、時を同じくして世界に救済者と災禍という存在が誕生した。救済者は朝露のように透き通った水色の頭髪と瑠璃色の瞳をその証に、災禍は白銀の蓬髪と赤眼をその証に現世へ降臨せしめた。
双方の関係は光と闇。より強い方が一方を塗り潰し、もう一方が世界から抹消される、いわば敵対の関係だった。
だが、その関係に理由など存在せず、双方が争うことに意味なんてなかった。そこにあるのは問答無用の殺戮のみ。二つの関係はよもや自然の摂理として世界に組み込まれていた。相手を駆逐しなければ自分が一掃されてしまうといった弱肉強食の理念がそこには存在した。
その仁義なき闘争に勝ち抜くために二者には異能の力が与えられた。
救済者には人の身にて災禍を殺し尽くすための《蹂躙》という力を。
災禍には人ならざる不死の身にて万物の生死を司る《与奪》の力をそれぞれ与えられた。
それはどちらも互いを滅ぼし得る力だった。
しかし、災禍の場合はその強大な力を代償に世界の因果を歪める可能性を孕んでいた。
それは世界の原理、法則をも変質させ、やがて終焉を生むものだった。
やがて救済者は人間の群棲に受容され、災禍は忌避されていく。それが一方的な逃避行を演出することも知らずに、人間は災禍を終焉の使者として畏怖していく。
狩る側となった救済者、狩られる側となった災禍。光と闇――あるいは光と影。
それは終焉の篝火に他ならず、災禍だけを置き去りに世界は流転する。
やがて光と闇は惹かれ合い、終焉へと続く境地を目指す。
彼の者はその場所をこう謳う――最果ての境界線(ラスト・ホライゾン)と。
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