終章 最果てのクリスマスと嘘つきサンタ

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   視点/レリエフ  一二月二四日。世界ではその日の晩をクリスマス・イヴと呼称した。  本来、クリスマス・イヴとはキリストの誕生日を祝賀する、クリスマスの前夜祭であり、その詳細は神の善導を賜るべく教会に整列した信者たちが聖歌隊と連なって鎮魂歌(ミサ)を唱え、やがて大地の恵みに感謝を込め晩餐にありつく、というものだった。   しかし何の因果か、クリスマス・イヴという催しが世間に吹聴していくその過程で、事実が不可逆変化をきたし、現在の”サンタが街にプレゼントを持ってやってくる日”になってしまったわけである。  その誤った風習が私の故郷であるアヴァンブルクにも如実に浸透していたわけなのだが。実はアヴァンベルクにはイヴを過ごすにあたって、もう一つの暗黙の了解が存在した。 「うっわぁ……どうしよう! どうしよう!」  とある宿屋の一室にて。私――ナターリアレリエフは寝床で布団に包まりながら大声をあげていた。普段は冷静沈着かつ清楚な人間を装っている私だったが、ことここに至る私は素に戻らずにはいられないほどに動揺している。心なしか体が暑く、先刻から動悸が止まない。      どころか、鼓動は天井知らずに加速を続けている。そのうえ”アイツ”の顔がチラついて止まないのだ。 「うなぁぁぁぁあ! 何なの、何なのよもう――かはっ、かはっ、かはっ」  形容しようのない苛立ちに目前にあった布団をバタバタと叩いった私だったが、格安で宿泊することができたこの民宿の布団は大量の埃を内包しており、結果的に私は埃まみれになり咳き込むこととなったのだった。  ……一体、何なのだこの感覚は。嬉しいでもなければ楽しいでもない。かといって悲しいわけでもなければ寂しいわけでもない。どちらかといえば、それらを一つの皿に盛り合わせてぐちゃぐちゃに混ぜ合わせたような心境が、私の心中で逆巻いている。 「はぁ。何なのよ、ほんとにもう……。何でアイツの――ハクアの顔が頭から離れないのよ……」  私は自らの不幸に一つ溜め息を吐き、やがて羽毛の布団に顔を埋めてその意中の人物を糾弾した。
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