終章 最果てのクリスマスと嘘つきサンタ

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   001  《救済者(リリーサー)》。それが私の一族――ナターリア家が該当する種族の名称だ。  救済者とは、世界に終焉をもたらすとされる《災禍(カラミティア)》という不死の存在を討滅するために生みだされた血統のことで、災禍が生死を司る《与奪》の能力を持っているのに対し、救済者は災禍を唯一抹殺できる《蹂躙(バイオレット)》の能力を所持する異形者を指すものだ。  それはすべからく”災禍から世界を救済する”という天命を与えられたことを意味し、その異能な力はやがてナターリア家を戦場に向かわせることとなる。事実、斯くいう私も、ナターリア家の嫡子として幼い頃より武道に邁進させることになる。  元来、私の両親は古風な考えの持ち主で、伝統やしきたりを誰よりも重んじるような人だった。何より、救済者として誇りを持っていた両親の教育は徹底していた。娯楽や嗜好品を禁止され、趣味も読書や楽器だけに限定されて育った。何がって、自分の意思で物事に興味を持つことがまず許されなかった。一般人がら見れば、与えられたものにしか関心を持ってはならなかった私はさぞや、巣で餌を待つ雛鳥のように滑稽だったことだろう。  そんな歪曲した教育が影響してか、その制限だらけの生活は私の感情を欠落させていった。興味を持つことはいけないことだ、何かに関心を持つことはならないのだ。  そんな強迫感念が徐々に私を蝕んでいった。  そう、蝕んでいったはずだったのにーー。   「スジョウ、ハクア」 やがて私は頭まで被っていた布団を引き剥がしてベットに腰掛けると、その名前を暗示のように何度も呟いた。 一二月の大気は張りつくような冷気を帯びていて、扉の隙間から入り込んできた風が私の身体を萎縮させる。言葉を紡ぐ度、その口元に白い湯気立ち込める。  その言葉はやがて心中で波紋すると、小さな幸福と悔恨の情が私を満たした。  それこそが現在、私を悩ませている発作の原因だった。  ハクアのことを考える度、私の胸には棘が刺さるような小さな痛みが走り、途端にハクアのことしか考えられなくなる。 そして私は昨晩、想像してしまったのだ。 「かぁぁぁあ……」  想像した内容を脳内で反芻してしまい、自分でも顔が紅潮するのが分かった。  私が想像してしまったこと。それはクリスマス・イヴを、そのっ、ハクアと……恋人として過ごすことだった。
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