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唯一あったのは人が一人だけ通り抜けられそうな薮道だった。
その何が出てもおかしくないような獣道を進んできた僕らだったが、オブリビオンの丘に辿りつく気配は一向になく、何かよからぬ事態に陥ってしまっているのではないかと危惧している僕は意気地なしなのだろうか。
そんな小心者である僕の愚言に救済者ナターリア・レリエフは歩みを休めず、水平線の見えるその丘目指して闊歩を続けるのだった。
「れっ、レリエフさん?」
「……」
「おーい、レリエフさんや?」
「…………」
「はい、無視ですか。そうですか、無視なんですね、相分かりました。でも、普段から放置プレイにあってるハクアくんは別に改まって気にしたりしませんよ? よかったですね、放置プレイに耐性のないハクアくんじゃなかったら、レリエフさんてば今頃は鬼畜救済者レリエフとか命名されてるとこでしたよ、はははっ」
無視。
……いやね、うん。嫌われてることは薄々気付いてたけどもさ。でもだからといって、人の渾身のネタまでスルーすることはないじゃないか。
そんな僕の瑣末な葛藤を知ってか知らずか、レリエフは怒りを堪えるように肩を戦慄かせる。あぁ、怒てますね。これは確実に怒ってますね。
それにしても、だ。
原因はたぶん僕にあることは間違いないのだけれど、今日のレリエフさんは普段よりすこぶる機嫌が悪かった。
普段から僕に対して敵意ある粗暴な振る舞いをするレリエフだが、そこにはまだ問答の余地が存在していた。一定の規律さえ厳守していれば僕の与太話にも耳を傾けてくれるし、これが僕の話し方(スタンス)であることも多少なりとも理解してくれているようではあった。
しかしながら今日は違う。レリエフは僕の話を聞くどころか、まるでそこに誰もいない風な挙動で僕を苦悩させていた。
本来、儀に熱いレリエフは人にやられて嫌なことは他人にもしない人だ。敵対関係にある僕だから口調は荒いものの、礼に思ったことに対してはちゃんと感謝の言葉を口にするし、僕を無視することは今まで一度だってありはしなかった。
よもや死期を迎えようとしている人間には関心がないということなのだろうか?
……まぁ、人間ではないのだけども。
「もしもしナターリア・レリエフさん。ナターリア・レリエフさん?昨日、商店街で装飾品を買い占め、大事そうに抱えていたナターリア・レリエフさん?」
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