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あちらこちらで街人が行き交う中、私たちはそれを遮るかのように黒い静かな雰囲気をまとった馬車に乗っていた.
冬の入り頃.
葉についた霜が寒さで氷、お日様がそれをとかし始める時間.
御兄様と二人きりの馬車が止まった.
「今日も任せたぞ.」
「はい、御兄様.」
馬車番のシャーが差し出した手を掴み私は重い深い赤のドレスの裾を引っ張り出すように払った.
「御無理はなさらず.」
「……それを御兄様が望めばいいのにね.」
悲しそうなシャーの胸を撫でて、いまにも雨が降り出しそうな空をドアの向こうへと追いやった.
「狙いはヨーク社だ。今日は……」
「ウィンク様がいらっしゃってるようですね。」
「あぁ…その様だな……」
「時間は…?」
「………18:00丁度だ。」
「かしこまりました。」
「では、私は奥にいる。」
御兄様と別れて音が響くヒールの靴を大理石の床に這わせる。
「ん?」
私に気がついたウィンク・ダールが、シャンパンの入ったグラスを二つ手にして歩み寄ってきた。
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