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   体育館を出ると、校庭は部活見学をする多くの新入生で賑わっていた。  「次、どこ見に行く?」と夏海が訊いてきた。写真部に美術部、家庭科部に演劇部。大規模校だけあって文化部の数も多い。鈴音は迷ったあげく、オーケストラ部を見に行くことにする。  取り柄のない鈴音だが、幼い頃に二年間だけバイオリンを習ったことがあった。今では小さくなった四分の一のバイオリンは、物置のすみっこで埃をかぶっている。  「クラシックかあ。ちょっと緊張する」と言って、夏海は制服の襟を直した。高校のオーケストラ部は、パンフレットによると全国大会の常連らしい。二人はグラウンドの西にある講堂に入った。講堂の中は見学する1年生でいっぱいだった。二人は、後ろの方にやっと席を見つけて座った。  「へえ。オーケストラって人気なんだ」と夏海が言った。鈴音は、「そうだね。何かドキドキする」と答える。  やがて舞台に五十人あまりの団員が上がる。彼らはブレザーを着、臙脂色のネクタイを締めていた。堅苦しいと言うより、芯の通った潔さが感じられた。 .
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