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「ねえねえ。この曲知ってる?」
入り口で渡されたパンフレットを鈴音に見せ、夏海が訊いた。パンフレットを見ると、演奏される三曲が紹介されていた。
ビゼー作曲『カルメン前奏曲』
チャイコフスキー作曲くるみ割り人形より『花のワルツ』
ベートーベン作曲『エグモント序曲』
「知らない曲ばかりっていうか。私もこういうのよくわからないよ」と、鈴音は困ったように答えた。一曲目の『カルメン前奏曲』の演奏はすでに終わってしまったようだ。
二人は南側の席に並んで座ると、指揮者が出てくるのを待った。
やがて会場が静まりかえり、舞台の下手から指揮者が登場する。一気に場の雰囲気が変わった。金色の粉を一面に撒き散らしたと言ったらいいのだろうか。指揮者には、それくらいの魅力があった。まるで聴衆全員が魔法をかけられたよう。
「あっ」
鈴音は指揮者の顔を見て、思わず声をあげた。亮先輩……。そして無意識に右手の親指を噛んでしまう。夏海は、そんな鈴音を肩で突っつくと右手を掴んで下ろさせた。
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