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「そろそろ、あの子の様子を見てきていいですか?」
新山祐は、とある資料を読んでいる久我山颯太という男に笑顔を作って問いかけた。
「資料には全部目を通したのか?」
野太く重い声と共に鋭い眼差しが返ってきたが、「完璧です」と冗談交じりにウインクした。
「それに、もう起きる予定だしね。目を開けていきなり颯太の顔を見たらビックリして、また気を失っちゃうかも」
同室の奥で同じく資料を読んでいる古賀涼子が意地悪そうな顔をして、久我山の風貌を茶化した。
彼は端整な顔つきをしているが、どこかマフィアのボスのような、軍隊の鬼軍曹のような、重厚な威圧感の持ち主である。
それは、いつもカチカチのオールバックのせいでもあり、切れ長で一重の眼のせいでもあり、くすりとも笑わない性格が生み出した負のオーラのせいでもあると、勝手に祐はそう思っていた。
「早く行け」
「は~い」
相変わらず冗談は通じていないようだ。しかし、祐はそんな彼に嫌悪も畏怖も感じてはいなかった。部屋を出ようとしたとき、背中から声が聞こえた。
「祐、しくじるなよ」
「分かってますって」
祐に久我山の表情は見えなかったが、彼の心は見えていた。そして祐は、こんな彼だからこそ、好意を抱かずにはいられなかった。
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