PROLOGUE

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「寒い」 一言呟き、身震いをする。雫が衣服から弾ける。衣服と言ってもぼろぼろに擦り切れたデニムに、どこのブランドかも分からない無地のTシャツ、そして頭から踝までを覆うぼろ切れを羽織っているだけ。おおよそ衣服と呼ぶに相応しくはない。これなら工場で使われるのを待つウエスの方がましというもの。むき出しの足もどこで怪我をしたのか創傷のない場所を探す方が骨を折りそうだ。特に、刺創・切創が目立ち、歩き方もぎこちなく、血を引きずっている。血の量も多く、さながらカンヌのレッドカーペットを彷彿とさせる。 ふっ、と足が止まる。身震いはすこし大きくなった。先程まで伸ばし続けてきた絨毯は雨に流されていく。 「出てきなよ」 不意に口を開く。その声はどこまでも穏やかで、友好的で、そして怯えていた。一瞬、雨の音すらしんとした後、数人の大柄な男達が出てきた。全くもってよくこんな所にこれだけ隠れてたもんだな、と賞賛したくなる。何故ならここは人目につかない街の影「ダウンタウン第陸番街66丁目」通称『666-SHADOW TOWN』。この国で最も日の光から程遠い場所。居住区にも関わらず例外的に危険度Aに指定されていて、住人も少なく寂れている。まず裏の人間ですら近寄らない様な場所だ。更に迷宮のように入り組んでいて道幅も極端に狭い。
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