PROLOGUE

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「サビついちまったもんだな」 ふと、1人群れから離れ近づいてくる。伸び放題の深紅の髪の毛を無造作に掻き揚げながら悪態をつく。帯びている酒気、乱雑な仕草、白地に朱と金細工が施された衣服、垂れの横に携えられた酒瓶、8等身は在るであろう大剣フェンリル。よく見知った仲だ。どちらかと言えば強面ではないにも関わらず、伸び放題の無精髭と骨太な体格から、見る者に一般的な青年とは真逆の印象を与える。 しかしフードを被ったそれは、彼のプレッシャーに微動だにせず直立を維持する。しばし雨音以外が静かになる。屋根に当たる雨粒、屋根を伝い、路地裏に並べられた樽の上に落ち水溜まりを作る。はじめの方こそ乾いた木板と水滴がぶつかり、甲高い音が響いていたのだろうが今はもはや水と水が触れ合っているのみ。その脆弱で儚い音は、スコールによりかき消される。 「元気してたかよ」 轟音の中、高らかに、街で久々に出会った友に話しかけるように、飄々と聞く。そして彼はまるで相手の返答が無いことを知っているかのように話し続ける。 「俺がなんでここにいるのかわかってんだろ」 相手に質問するような、宣告するような不思議な語り口だ。朱のかかった黒髪は目元を隠していて、感情は読み取れない。
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