PROLOGUE

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「ああ」 彼の問いに対しての初めての返答。男にしては高く、女にしては低い中性的な音色。苦しみと、痛みと、計り知れない重みの籠もった音色。その声を聞き、彼の口元が歪む。口角が盛大に上がって、開いた唇の間からは白い歯が顔を覗かせる。髪の間から微かに覗く視線はさながらまるで餌をお預けされた肉食獣。瞳孔は縦に伸び、犬歯が異常発達したその様は人ではなかった。 「何か言いたいことはあるか」 開かれた口から発せられた声は空気を震わせる。わざと声を張り上げたという様子は見えず、依然彼はそれを見ている。それは少し迷い、口を開こうとした瞬間膝から崩れ落ちた。獣のような唸りを上げ、身体中をかきむしり、叫びをあげる。カラダは脈打つように跳ね、そのたび体が何かしらに叩きつけられる。 「 呑まれやがったか」 彼は大剣を抜きながら呟く。大剣を弄びながら悠々と闊歩し、近づいていく。 「俺も急がなきゃいけねーみたいだ。あばよ。」 彼はそう告げ、剣を振り下ろした。しかし、鳴り響く音は肉を絶つ音ではなく、金属音。それは先程までの事が嘘のように静かになり一撃を上腕で受け止めていた。静かに、ただただ静かに大剣をいなし、すっと立ち上がる。それは自ら被るフードを払いのけ、空を見上げた。顔に纏わりつく黒髪の間からこぼれる朱い眼はどこまでも深く最早何も映してはいなかった。自らの頬を伝うものすら。
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