その3 壁の悪魔

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古い煉瓦造りの、ワンルームのアパートに引越したら驚いた。壁のいっかくに悪魔の絵が描かれていたのだ。 どうりで家賃が安いはずだ。不動産屋のやつ、ひと言くらい言ってくれてもいいのに…そう思いながら消そうとしたが、消えない。 マジックリンでゴシゴシ擦っても、ベンジンで拭いても駄目だ。 絵の上に、紙を貼って覆い隠そうとしたが、なぜかハラリと剥がれ落ちてしまう。 板を打ち付けようかと思ったか、煉瓦で出来た壁だから釘も通らない。 よく見ると絵の後ろの部分がペンキで重ね塗りされている、つまるところ絵を塗り潰しても、またその上に浮かび上がってしまうのだろう。 結局オレは気にしないことにした。が、夜中に誰かの話し声で目を覚ますと、壁の悪魔がホログラムのように浮かび上がって、独り言を呟いていた。 そして、こちらに気づくと、耳まで裂けた口でニタリと笑い、 「よう、五年ぶりの住人だな? 話し相手がいなくて退屈してたんだ。俺の話を聞いてくれや」 そう言って悪魔は、こちらが頼みもしないのに、人を呪い殺す方法とか、神との千年戦争などの話を、一晩中喋り続けた。 朝になり、寝不足の頭で悪魔の弱点を考えたあげく、教会へ行き十字架と聖水をもらって来た。 夜、立体化した悪魔に向かって、十字架を振りかざし、祈りの言葉を唱えながら聖水を振りかけた。 悪魔は大袈裟に苦しんでみせた後、ケロリとした顔に狡猾な笑みを浮かべた。 「馬鹿だなあ、俺は絵なんだぜ。絵に、本物の十字架や聖水が効くもんか」 「そうか、だったら絵には絵だな!」 そう叫んで、なかばヤケ気味に、油性マジックで悪魔の隣に、天使の輪っかを頭に乗せた、キリストの絵を描いた。 悪魔は、一瞬ビビった顔になったが、すぐに嘲りの笑みを浮かべた。
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