第一章

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「使い方が分からないわ」 「簡単です。引き金に指を掛けて……」  婉容は恐る恐る拳銃を握りしめ、人さし指を引き金に掛けた。 「そのまま狙いを定めて……」  そう言って璧輝は拳銃の銃口を掴んで、自分の左胸にぐっと押し当てた。 「そして引き金を引いて下さい。ダブルアクションなので操作は容易ですが、力一杯引き金を引かないと弾が発射されないのでご承知おき下さい」 「わかったわ」  婉容は力が抜けたようにだらりと拳銃を持つ手を下ろした。 「どうかご安心を。私は皇后陛下を裏切るような事は決していたしません」 「それはまだわからないことよ。貴方は私の問いに答えてくれないばかりか、初対面の……日本人なのか、本当に中国人なのか分からない、見知らぬ人物を到底信じるわけにはいかないわ。そうでしょう?」 「ごもっともであります。けれど今から私の命は皇后陛下の掌中にありますゆえ、どうか早くお支度を」 「では何処へ行くのかだけでも教えて頂きたいわ」  璧輝はほんの数秒躊躇った後に言葉を繋いだ。 「私は大連までお供させて頂きます」 「大連? 満洲の地へ?」  璧輝は頷いた。 
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