-転- ボクは何者に“成るべき”なの?

16/47
前へ
/192ページ
次へ
   遅かったか。 癒奈の耳の穴から、霊魂のような浮遊気体が入り込んだ。 涙深は偶然その場に居合わせていたらしい。 「しっかりして下さい、癒奈ちゃん。おかしいですね。今日はそんなに恍惚剤を飲んでいないのに!」 癒奈の肩を揺らす。 けれど無反応。 狼狽する涙深。 ボクは入口の段差にハイヒールを引っかけ、だらしなく前に倒れた。 「癒奈に何をしたんだ、バイタリヲン!」 ボクは唇を震わせた。 滲んだ口紅が違和感を覚えさせる。 「どういうことですか、千好君」 涙深がボクの元へ駆け寄った。 「ちゃんと、答えて下さいよ」 半開きだった部屋の扉が、勢いよく開いた。 切矢達だ。 「これはどういう情況なんだ?」 ボクは部屋を見渡す切矢の横顔を見上げた。 「我が名は……」 ゾンビが蘇るように、むくりと起き上がる癒奈。 「バイタリヲンなり。全ての生命の産みの親である。しばらくの間、灰鶴癒奈には我の器になってもらおうぞ」 「おい、どうしたんだ癒奈!」 癒奈に駆け寄る切矢。 「おっと、それ以上近づくと、この器の命を断つぞよ」 霊魂に操られた癒奈は懐からナイフを取り出し、自分の首筋に当てた。
/192ページ

最初のコメントを投稿しよう!

62人が本棚に入れています
本棚に追加