62人が本棚に入れています
本棚に追加
癒奈の部屋に飛び込んだ時、まず目に入ったのは、へたれ込んだ千好の姿だった。
折角綺麗に整えた口紅が滲んでいるぜ。
まるで血を吸った後の吸血鬼みたいだ。
次に目撃したのは、妄言を唱える癒奈のざらついた首筋だった。
懐から取り出したナイフの先が、浮き上がった血管に接触している。
また癒奈が恍惚剤を過剰摂取したのだと、俺は推測した。
だがそれは間違いだった。
何者かが癒奈に憑依しているようなのだ。
「お前は本当にバイタリヲンなのか?」
「その通り。汝の右手、そして神偶千好の左手に能力を分け与えはこの我である。どうやらまだ上手く使いこなせていないようだな」
白目を向く癒奈。
「我はほんの遊び心で木の上に暮らす獣を大地へ導き、知恵を与えてみた。まさか<世界>を巻き込んだ争いを三度も行い、果ては<世界>を滅ぼすような愚かな動物に成長とは……」
はっと我に返る千好。
「<世界>は本当に滅びたの? ドームの外側には何もないの?」
「それは教えられぬ。自分の目で確かめてみると良い。それでは我は戻るとしよう……」
癒奈が口から泡を吹いたので、途中からバイタリヲンの言葉は聞き取れなかった。
最初のコメントを投稿しよう!