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「おい、どこへ行くんだ!」
バイタリヲンに尋ねたいことは山のようにあった。
<工場>に鎮座するバイタリヲンシステムのこと。
俺の右手の能力のこと。
<セカイ>の外側のこと……。
問うことすら叶わなかった。
霊魂のような生命エネルギーの塊が、癒奈の口から泡に混じって吐き出される。
空中を漂い、千好の人面瘡の中へ溶け込むように入っていった。
俺達は眺めることしか出来ないというのか。
バイタリヲンは俺達の行動をずっと観察してきたようだ。
奴には隠し事は出来ない。
なんでもお見通しなのだ。
気に入らないぜ。
俺は奴の掌の上で踊らされていたのかよ。
癒奈の手からナイフがこぼれ落ちる。
金属の鋭い音。
生気を抜かれたように倒れる癒奈。
「大丈夫か、癒奈」
返事がない。
「意識を失っておるようじゃのう。すぐにわしの診療所へ運び込むのじゃ」
恩字が担当する診療所では、病気や怪我をした<不良>達の手当てが行われている。
「聞いたか? 入口を開けてくれ」
俺は仲間に指示を出した。
「吾輩も手伝いますぞ」
「済まないな、断」
俺と断は癒奈を担ぎ上げ、診療所へ向かった。
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