-転- ボクは何者に“成るべき”なの?

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「おい、待てよ千好」 誘音はボクの肩を掴んで引き留めようとする。 意外と女性的で、柔らかな指先。 人の体温を感じるのは久しぶりだ。 でも、ボクには受け止められない。 「離してよ。ボクは部屋に戻るんだ」 「うるせえ。話はまだ終わってねえだろ」 ボクは嫌々振り返った。 誘音の釣り目が、ボクの瞳に突き刺さる。 「眠いから早く済ませて下さいよ」 視線を落とし、呟いた。 「おいおい、どこ見てんだよ。オレの顔がそんなに不細工なのか? それともオレの美脚に見とれてんのか? 人と話す時は目を相手の目を見ろよ」 「す、済みません」 ボクは震える顔を上げる。 あ、釣り目で怖い感じだと思ってたけど、意外とまつ毛が長くて女っぽいんだ。 少しだけ印象が変わった。 「話ってなんですか?」 「初めてオレの目を見て話してくれたな」 誘音は器用に口角の片方だけを上げて、にやりと笑った。 「お前、癒奈が心配じゃねえのかよ」 みんな知ってたんだ、ボクが一度も診療所へ行ってないことを。 「さっき、円卓の騎士団のメンバーとして重要なのはボクの能力だって言ってたじゃないですか。今度こそ誘音さんには関係のないことですよ」 ボクは強く言い放った。
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