-転- ボクは何者に“成るべき”なの?

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「確かにそうかもしれねえけど、睨むことはねえだろ」 誘音はショートヘアの頭をポリポリ掻き、クスクスと笑った。 「睨んでませんよ」 「まったく、自分の顔を鏡で見てみろよ。千好ってすぐ顔に出る性格だな。面白いぜ」 「知らないですよ」 「あ、また目を逸らしやがったな。ええい、面倒だぜ」 いきなりボクの右腕を掴んだ誘音。 「あ、何をするんですか」 「いいから来い。ちょっと付き合えよ!」 ボクの腕を掴んだまま、誘音はぐいぐいと大股で廊下を闊歩した。 「どこに向かってるんですか。ボクの部屋はそっちじゃないだけど」 「うるせえ、黙りやがれ。今から向かう先は恩字の診療所だぜ」 「嫌だ。行きたくようっ」 「ガタガタ言うんじゃねえ。とっとと歩け」 誘音はボクをさらって行った。 癒奈が眠っている診療所へ向かって。 「誘音さんって強引なんですね。切矢みたいで」 最後のは皮肉だった。 「……本当はオレだって、誰かにエスコートして欲しいお年頃なんだぜ。でも最近の男はどいつもこいつも草食系ばっかりだからな。オレが強くなるしかなかったんだ」 廊下を曲がる瞬間、前を歩く誘音の横顔がちらり見える。 にひひ、と微笑んだ表情はとても格好良くて可愛かった。 「切矢だけがオレを導いてくれると思ったのによう。あいつの目当ては……」 言葉を濁す誘音。 領土問題の話は口にしないようにしよう。
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