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診療所の個室にて。
白いカーテンの向こう側に映る人影。
眠り続ける癒奈の枕元で、切矢のむせび声が聞こえる。
「じゃあな、オレは先に失礼させてもらうぜ」
「い、誘音さん!」
誘音はボクを置き去りにして、診療所からすたすたと逃げ仰せる。
一人残されたボクは肺に息を溜め込み、意を決してカーテンを少し開けてみた。
「俺はグループのリーダーなのに、何もしてやれなくて済まない、癒奈」
意識を失った癒奈に、延々と語りかけ続ける切矢。
青白い顔。
いつもの毅然とした顔つきは消え失せていた。
開きかけたカーテンをそっと元に戻す。
「そこにいるのは千好だな?」
気付かれてしまった。
「や、やあ。切矢じゃないか」
ボクは閉じたカーテンを再び開き、作り笑いを浮かべて切矢の顔色を伺った。
「白々しい奴だな。入って来いよ」
「う、うん」
薄明かりの中、ボクは切矢の隣に座った。
「今まで癒奈の見舞いに来ていなかったようだな」
「切矢は毎日来てたの?」
「時間があればここに座っている」
「そうだったんだ。ずっと癒奈に話しかけて、意識を取り戻すのを待ってたんだね」
「さっきの話を聞いていたのか……」
恥ずかしそうに笑う切矢。
こんな表情、仲間には見せないだろう。
ボクの隣にいるのは<不良>グループのリーダーではなく、昔から変わらないボクの友達、御霊切矢だった。
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