-転- ボクは何者に“成るべき”なの?

24/47
前へ
/192ページ
次へ
「七年前、俺は今日香先輩に何もしてやれなかった。今でもずっと後悔してる。毎朝毎晩、夢の中でさえも」 切矢は震える手を伸ばし、ベッドに横たわる癒奈の動かない左手を握る。 「あの日の出来事を覚えているか?」 「うん。絶体に忘れるもんか」 「あの日以来、癒奈は<セカイ>の一部に成った子供達のうめき声が聞こえるようになったそうだ」 「え、ボクはそんなの初耳だよ」 「癒奈の奴、千好には隠していたのか。俺も初めは幻聴ではないのかと疑ったさ。<学力テスト>の成績のことで色々ストレスを抱えていたようだしな」 癒奈、どうしてボクに相談してくれなかったんだよ。 「耐え切れなくなった癒奈は、とうとう恍惚剤なんかに手を染め出した。きっと千好には言いたくなかったのだと思うぜ。癒奈は……ずっとお前のことが好きだったんだ。迷惑かけたくなかったんだろうな。だから一人で寮を抜け、<不良>の道に踏み込んだ」 「そんな、嘘だよね。それに、癒奈がボクを好きだったなんて冗談きついよ。当時の癒奈は、ボクには手に届かないような美少女だったんだよ。ずっと片想いで悩んでいたのに、そんなことって……」 ボクは首を横に振る。 切矢の話が信じられなかった。
/192ページ

最初のコメントを投稿しよう!

62人が本棚に入れています
本棚に追加