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バイタリヲンは言葉を続けた。
「灰鶴癒奈は意識を取り戻してなどいない」
「ど、どういうことだよ?」
まるで意味が分からないよ。
やっぱり、涙深は嘘をついてたのかな。
「我の言葉の真意を知りたくば、灰鶴癒奈を追うがよい。手遅れになる前に」
「て、手遅れって?」
「そのままの意味である」
思考が渦を巻いた。
路地裏で癒奈と再開した時と同じだ。
その場でへたり込みそうになる。
今更どうして、ボクは癒奈のことを考えてるんだろう。
割り切ったはずなのに。
「灰鶴癒奈は意識を取り戻していない。であるならば、彼女の肉体を操っているのは誰であれうか?」
バイタリヲンは意味深に問いかけた。
薄気味悪い笑みを浮かべる人面瘡のしわ。
こいつ、まさか……。
「我は無限の生命体。自らの精神体を複数に分割することなど、たやすいことよ」
バイタリヲンの話が本当だとする。
癒奈の肉体から吐き出されて人面瘡に戻った時、バイタリヲンは自分を分割していたとしたら……。
ボクの人面瘡に宿っているのはバイタリヲンの半身で、本体は癒奈の中に潜んでいる可能性がある。
「バイタリヲン、お前!」
ボクは人面瘡の口に親指の爪を突っ込んだ。しわの間から、怒りの血潮が噴出する。
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