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「やっと自分の感情に向き会うたな、神偶千好よ」
左手の掌から血が流れ落ちている。
ボクが抱いた感情すらも、バイタリヲンの誘導だったということか。
「汝に与えた能力は、汝が真に望んだ場合にしか発動せん。自分の気持ちに嘘をついてはならんのだ」
「お前に言われるのはしゃくに障るけど、ボクは診療所へ向かうしか選択肢はないんでしょ」
「汝にしては理解が早いではないか」
「嫌味な奴だね。癒奈の肉体やボクの左腕、切矢の右腕を利用して楽しんでるだろ」
「見守っているだけである。全ては汝の選択次第なのだ。せいぜい考えて行動するがよい」
「分かった。言う通りにすればいいんでしょ」
ボクは溜め息をついて扉のノブをひねる。
血が混じった汁がこびりついた。
ハイヒールをツカツカ鳴らし、廊下を駆け足で渡る。
ボクは足を動かしながら考え事をしていた。
途中で三度転んだけれど、誰も見ていないので気にしない。
ボク達人間は、<セカイ>という名の舞台でバイタリヲンに踊らされているんだろうか。
でも、自分の意思で動くことも出来る。
ボクが癒奈を追いかけるのは、自分の意思なんだ。
例えバイタリヲンの思惑通りだとしても。
それに切矢について行けば、ボク達は<セカイ>の外側へ逃げられるんだ。
バイタリヲンの台本なんて、滅茶苦茶になるもんねー。
ま、ボクは何もしないけどね。
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