-転- ボクは何者に“成るべき”なの?

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闇に包まれる恩字。 「千好、おぬしの能力は、おぬし自身によって強くも弱くもなる」 倉庫の奥から順に、照明が点灯していく。 「例えばおぬしが能力を使い、その左手でわしに触れたとしよう」 恩字の顔の右半分を覆う影。 「わしがどのような姿になるかは、触れた瞬間におぬしが抱いていたわしへのイメージが反映される」 数秒後には暗い影はなくなり、恩字の顔が浮かび上がった。 「じゃが、たかだかこの小さな<セカイ>に身をおく一人間の貧弱な想像力や狭い了見、認識には限界があるよのう。しかも、触れた人間に対してなんのイメージもなければ、発動すら叶わぬときた。暗闇では相手の顔が見えぬのと同じじゃのう」 そうか、ただ人間に触ればいいという単純な能力じゃないんだ。 切矢の初期化の能力のようにはいかないな。 「どうすればおぬしの能力を強化させられる? 簡単じゃ。沢山の知識を得て<セカイ>に対する認識を広げること。そして触れる人間の中身を見抜き、心を開くことじゃな」 恩字が能力の説明をしている間に、倉庫に蔀が割り込んで来た。 「し、蔀さん!」 ボクとの間の空間を、文字通り刀で割って入って来たのだ。 見事な刀さばき。 両目を失った人の太刀筋だとは、到底信じられないよ。 「神偶千好さん、この咎先蔀(とがさき しとみ)と決闘しなさい。今すぐです」 その声は、どこまでも淀みなく透き通っていた。
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