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「えっと、とりあえず刀をボクの顔に向けるのはやめて欲しいです、お願いします。危ないですからね。そして、深く息を吸ってみて下さい。どうです、これで落ち着きましたか?」
「ご安心を。私の研ぎ澄まされた精神は常に落ち着いています」
「だったら右手に構えてるその物騒なモノをしまってよ!」
咎先蔀って、こんな危険人物だったのか。
「物騒だなんて、とんでもない。刀は私の相棒……いえ、恋人ですよ」
「はあ、そうですか。刀に変身させちゃった件は謝りますので、今回はお引き取り願います」
「いえ、あれは私の修行不足が原因だったのです。あなたに謝られると余計に腹が立ちます、自分自身に。目が見えなくとも周囲の人間から放たれる気を察知出来ると言っていたのに、あんなに安々と背中に触れられるなんて……」
サングラスの女剣士の刀を持つ手に力が入る。
どうやら先天的な病気で両目の視力を失ったらしい。
「決闘、勿論受けますよね? 私はこれでも刀の使い手です。扱いには長けています。あなたに傷はつけません」
「でも……」
「私の目が不自由だからですか? それが理由なら、怒りますよ。馬鹿にしないでもらいたい」
「ち、違いますよ」
瞳なき眼力から逃げるようにして、ボクの視線はきょろきょろと動き回る。
まるで臆病な小動物だ。
「そうじゃ千好、今日は訓練を取りやめて蔀との実戦を行なってみてはどうじゃろう? 面白そうではないかね」
「お、恩字まで何を言い出すんだよ」
助け船を出してもらおうと考えていたのに、このタイミングで放り出されるなんて……。
「やれやれ。ここまで来たら、受けて立つしかないよね」
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