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「恐怖心を捨てて最初に前に飛び出した兵士と、進むのをためらって後から現れた臆病者の兵士がいたとしよう。敵の銃弾に当たり易いのは、果たしてどちらだろうか?」
切矢はボクに質問を投げかける。
「答えは後者だぜ。敵が引き金を引くタイミングは、突撃時から必ず少し遅れるものだ。だから後から来た臆病者のほうが狙われる確率が高くなるんだ」
「へえ、そうなんだ。でもボクには実感ないなあ」
銃弾が飛び交う争いなんて、第三次<世界>対戦以来、一度も勃発したことがないのだ。
「恐れるなとは言えない。みんな人間なんだから仕方がないことだ。ただ俺から言えるのは、恐怖の対象に飛び込むことだけが、恐怖心を消す唯一の方法だということだぜ。逃げれば逃げるほど恐怖心は大きくなる」
「……悪いけど、ボクにはよく分からないや」
ボクは切矢から目を逸らし、背を向けた。
「部屋に戻るよ。じゃあね」
「千好……。俺は倉庫で待っているぜ」
後ろを向いていたので、切矢の表情は分からなかった。
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