-転- ボクは何者に“成るべき”なの?

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その時が来た。 ボクはちょこちょこと半歩ずつ下がる。 「ゆっくり動いても気配で分かりますよ」 蔀はサングラスのずれを正した。 その手を背中の鞘にやり、抜刀する。 「私の愛刀、鈍月(にぶつき)といいます」 銀色にきらめく鋼に、ボクの青白い顔が映っていた。 脂汗に浸される人面瘡。 言い知れぬ感情が沸き上がる。 入団試験で射澄と戦った時は、恐怖を感じる暇すらなかった。 それに獣に変身する前の射澄は、どう見たって普通の女の子だったのだ。 けれど、今回は違う。 鋼の板に圧倒されるボク。 蔀は鈍月の扱いを心得た達人だ。 見た目にも普通の女の子の感じはしない。 「試合開始じゃ!」 恩字が合図の言葉を発した瞬間から、蔀は動き出した。 「ひゃあっ」 ボクは一目散に逃走する。 倉庫は広いんだ。 取りあえず逃げとけ! 「逃げるなんて卑怯じゃねえか。面白くねえぞ!」 野次を飛ばす誘音。 こっちの身にもなってよ。 自分は戦わないくせに。 そうだ、誘音にも戦ってもらおうか。 ボクは誘音のほうへ走り寄った。 「おいおい、オレを変身させて武器を得るつもりかよ」 体をのけ反らせる誘音。 「毎度ワンパターンで済みません!」 黄金に輝き始める人面瘡。 「その手はもう効かないわよ」 なんて早業だ。 先回りした蔀が、ボクの前に立ちはだかる。
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