-転- ボクは何者に“成るべき”なの?

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鈍月が舞う。 ボクはとっさに右腕で体をガードしていた。 「うっ」 「安心して下さい。峰打ちですよ」 刃先は逆向きだった。 それでも……。 「うえーん、痛いよう」 痛いものは痛い。 右腕全体がじんじんと痺れる。 波のように押し寄せる痛感。 無意識に涙を流した。 「そんな所でむせいでいても仕方ありませんよ」 鈍月を構え直す蔀。 「えいや!」 「ふええっ」 ボクは右腕を左腕で抱え込み、側方に飛び上がった。 「いくら逃げたって、無駄ですよ!」 銀色の鉄塊が、ボクの頭に叩きつけられようとしていた。 「千好、俺の言葉を思い出せ!」 切矢の叫び声が耳の穴を抜ける。 どいつもこいつも、外野のくせにうるさいよ。 そんな言葉なんて、信用出来ないに決まっているだろ! 『逃げれば逃げるほど恐怖心は大きくなる』 心の中で何度も反復される切矢の言葉。 『恐怖の対象に飛び込むことだけが、恐怖心を消す唯一の方法だ』 ええい、うるさいったら。 『逃げれば逃げるほど……』 だったらどうしろっていうんだよ! ボクの額に食いつこうとする鋼の怪物。 「こうなったら、どうにでもなってしまえ!」 汗まみれの人面瘡が光を放つ。
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