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「気のせいではない」
「ひゃあっ、人面瘡が喋った!」
ボクはびっくりして尻餅をついた。
こんなことは生まれて初めてだ。
もう何がどうなっているのか分からない。
「き、君は何者なんだ?」
「我が名はバイタリヲン。この世に生命を造り出した者なり。汝の左手の中で十七年間、眠らせてもらっていた」
これは夢だ。
悪い夢だ。
だって、どう考えたっておかしいじゃないか。
「かつては人間どもに神だの悪魔だのと崇められたり、畏れられたりしていたものだ。人間はちっとも成長せん。やはり失敗作であったか」
「ちょっと待ってよ、君が何を言っているのか、全然分からないよ」
「当たり前だ。人間風情が、そう簡単に我の考えを理解しても困る」
人面瘡は困惑するボクに構わず、意味不明な言葉を連発する。
「四十六億年前、地球に生命の種をばらまいたのは我だった。生命を育てるのは大変だ。特にカンブリア期のAT細胞全種一斉覚醒計画を実行した時は苦労したものだ。あれは確か、約五億年前だったかな」
気が遠くなるような太古の時代の出来事を、まるで実際に経験してきたように語る人面瘡。
「君は本当に生命を造り出したとでも言うの? そんなの、到底信じられないよ」
「結構結構。人間を疑い深い生き物に設計したのは我であるからな。被造物に知能を与えるべきなのか、真剣に迷った。あの選択が我の間違いであったのだ。人間の祖先は樹上に暮らす小動物であった。彼らのAT細胞を我が刺激してやったことで、大脳新皮質が飛躍的に発達した新たな種が誕生したのだ」
つまり、この人面瘡が人類を産み出したのか?
「ふざけないでよ! そんなわけないでしょ」
ボクは一喝した。
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