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大通りのあちこちに屋台が立ち、見世物や大道芸人がひしめき合う。
人々は止まったり流れたりを繰り返しながら今日の夕餉を求めていた。
空にたなびく雲は紫に染まり、東の果てから夜が来る。
『風はめぐり、花は咲く』
『星は流れ 月を行く』
舞台はなく、足元は赤錆びた土だったが、その歌に観衆は聞き入った。
二人組の歌唄いが銀の輪についた鈴を打ち振りながらくるくる回る様に踊っている。
澄んだ歌声は喧騒にも響きわたり、行く者の足を引き寄せ、その人垣はどこよりも大きくなっていた。
一人は黒い髪に銀の簪、銀の首飾りを着け、もう一人は銀の髪に朱珊瑚の簪、珊瑚の首飾りを着けて、どちらも肌も露わな薄絹をまとい、その美女と見まがう美貌も相まって天女のようだと誰もが口々に囁いた。
光の弦を弾く様な歌声は時に細く時に力強よく、一糸乱れぬ舞はひらめくその手足と纏いつく薄絹によって幻想未が増し、薄闇に包まれかがり火の光の中に浮かぶと時を忘れさせるほど美しかった。
一曲が一幕の舞台のようでもあり、演目が終われば喝采と代価が投げ入れられた。
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