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見るからにガラの悪そうな男は黒髪の唄い手の腕をつかみ、下卑た笑いを浮かべていた。
「こんなところでちまちま稼ぐより、俺が養ってやるって言ってるだろ?。うまい飯に着物、寝るところもある。遠慮しねぇでついてこいって。」
派手な着物を着崩して、長い剣をこれ見よがしに腰にさげ、従えたお供が周りの見物客を追い払って回る。
ゴワゴワとした真っ黒の髭が顔の半分を覆い、のっそり立つ姿は熊のよう。
「…やめてください。」
「放してください。」
おびえた様に腕を引く黒髪を庇おうと銀の髪の唄い手が男に取りすがっていた。
だが、男は間近に見る二人の美貌と薄絹から透けて見えるしなやかな躰に相好を崩すばかりか、掴んだその手により一層の力を込めた。
「二人ともオレの屋敷に来い。」
有無を言わさない強い口調に、唄い達は慄いていた。
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