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ここは街から離れた山奥の谷間。
深い淵の底にある青と九重の住まいだった。
磨き上げられた大理石の床に高い天井のさらに上は青緑色の水面が差し込む光に波紋を広げている。
「あの場合は仕方ないだろ?。人間に怪我をさせるわけにはいかないし。」
「人攫いの常習犯のくせに、妙な理屈ですね。」
「そう言うな。」
突っかかる九重にがっくりと肩を落として反論できない青は深いため息をついた。
少し離れた床の上に視線をやると、怯えた動物のように身を寄せ合っている唄い二人が座り込んでうつむいているのが見える。
「驚かしてすまなかったな。」
瞬きする間に街からこの住まいへと移動をすることは龍族にはたやすい事であったが、人間には理解しがたい出来事であり、恐怖以外の何物でもないと分かっている青は、なるべく怖がらせないように務めて優しく声をかけた。
「お、お許しください!。」
「お咎めならばわたくしが受けます。弟だけは!。」
優しく声をかけたはずなのに、二人は床に額をこすり付けてそう詫びを口にした。
鈴を振るような声が細く響き、悲痛な色をにじませる。
「なにを?。」
言っているのか分からない青は隣に立っていた九重を見やると、彼は手にした最後の饅頭を平らげその指先をちらりと舐めていた。
「少し前に耳にしましが、彼らの事のようですね。」
「なにを?。」
「天界から咎人が逃げ出したと聞きました。若い兄弟で、名を瑠璃と玻璃。」
「ルリとハリ…。」
「美しい声で囀る、迦陵頻伽だそうです。」
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